中国寧波に根付いた 化学品メーカーの 「技術者魂」
寧波大開発区綜研化学有限公司
総経理  逢坂 紀行 さん  
 上海から400キロ、杭州を挟んで南東の方角に位置する寧波市。さらに東へ40キロ向かうと、小さな島にたどり着く。大島というこの島は知る人ぞ知る寧波市きっての工業区であり、中国の最高行政機関である国務院が批准した「国家級経済技術開発区」である。  
 
     

 この島の開発の歴史は、まさに現代中国の改革開放の歩みと伴にある。1992年にケ小平氏が中国南方を訪れて改革開放を強く訴えた『南巡講和』をきっかけに、かつては国家副首席を務めた栄毅仁氏が国営企業として設立した中国中信集団公司(CITIC)が大島に開発会社を設立し、1994年より、島の開発を行っている。そのCITICグループと、1948年創業で20年前から中国に化学プラントなどを作っていた綜研化学株式会社を両親として、1994年5月、大島初の日中合弁企業として設立されたのが、寧波大開発区綜研化学有限公司である。


 これほど壮大な国家プロジェクトの下に誕生した会社と聞けば、初めから何の苦労もなかっただろうと誰もが思うが、寧波綜研化学有限公司の逢坂総経理の第一声は意外にも違っていた。「日本では全く実績のなかった商品を製造しており、販売先もほとんど中国企業です」。


 同社が寧波で製造販売する製品は本社の歴史ある化学プラントでも、本社が日本で大きなシェアを誇る液晶ディスプレイの特殊フィルム用粘着剤でもなく、工業用粘着テープである。不織布両面テープ、PET両面テープ、フォーム両面テープ、保護膜テープなど、自動車や家電などの分野で幅広く使われている。さらに中国国内としては初めて、クラス1000以下のクリーン生産ラインを日本から導入し、LCD、IC、タッチパネルなど光学電子機器の分野で使われるクリーン粘着製品も急速に成長している。中国市場の需要の変化とともに分野が広がり、売り上げも毎年25%以上の伸びで右肩上がりの成長を続け、現在、直接の顧客の9割は中国企業だ。エンドユーザーは日本の大手メーカーが中心だが、中国メーカーも増えている。2006年には浙江省の著名商標の認定を受け、国内では浙江省特産ブランドとしての位置づけも不動のものになった。創業から14年を経た今、中国市場にしっかりと根を下ろしている。


 14年前という点を考えればなおさら、「技術者魂」の強い綜研化学の中国展開は独特だった。今でも「安価な労働力を求めて中国で生産、日本あるいは先進国で消費」という外資系企業が大半であるなか、綜研化学は中国進出当初から「生産・応用・消費も中国で」、「中国市場の発展に応じた技術支援を積極的に行っていくこと」を目標にしていた。しかしながら日本同様の高分子化学物質を用いた粘着剤の生産・販売は、当時の中国市場の状況からはあまりにも時期尚早だった。そのため、それまでは実績のなかった粘着テープの形にして中国市場で販売することにしたのが、現在の事業の始まりである。国家プロジェクトの下で華やかに誕生した会社だったが、実際はほとんど手探り同然だった。 しかしながら、日本での実績がなく、ゼロから始めた粘着テープだったからこそ、中国人の営業スタッフが自ら考え、自分たちの手で販路を広げていった。中国企業の担当者から直接手ごたえを感じられるからこそ、開発においても中国人スタッフが中心となっていった。1つ1つのチャレンジがスタッフにとって大きなやりがいとなり、その結果、日本では粘着剤メーカーとして知られる会社が、中国では粘着テープメーカーとしての知名度を誇るまでになった。ゼロから始めたからこそ、綜研化学が伝統的に培ってきた「技術者魂」が中国寧波にも根付いたのだ。


 14年を経た今、同社の離職率は非常に低く、休日のやむなき残業にさえ対応してくれる、頼れるスタッフも多いと聞く。逢坂総経理の現在の課題は、「中国人スタッフが自分たちで考えて活躍できる場を作りながら、同時に日本的な厳しい品質や製造の管理を強化する」ことだ。中国企業との競合が日々熾烈化する中で、今こそ「日系企業ならでは」の品質の安定性、それぞれのお客様に合ったサービスや対応で差別化を図っていかねばならない。技術開発型をより強め、フィルム、紙、樹脂だけでなく、新しい素材を使ったテープを総合的に開発していきたい。今年2月には環境に配慮したISO14001も取得し、ヨーロッパ向け環境対応商品も現在開発中だ。さらに、今年10月には2つ目のクリーン生産ラインを持つ新工場が完成する――。


 挑戦すべき課題はたくさんある。だが、すでに「技術者魂」の企業文化が根付いている今、スタッフと一丸になってチャレンジしていくことに不安はない。それは、むしろ大きなやりがいであり、大きな喜びなのだ。
 
 
 
 
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